死角

 もしこの行為を、お金(代金)を貰ってやったのなら問題かもしれないが、無料で差し上げたのだから問題はない。まして長い間解決しなかったものが1,2日で好転したのだから、寧ろその薬の使用をその治療に用いることを提案したいくらいだ。 門前薬局で処方せん薬を貰ってこない人が時々いるがこの方もそうだ。家族の薬を取りに来るのだが、病院の薬を作るのを殊更標榜していない僕の薬局に薬を取りに来続けてくれた意味がやっとあったと自負している。 あるトラブルで1ヶ月以上苦しんでいる。処方箋から一体どんな病気で苦しんでいるのだろうと想像するが、薬から類推するとかなりの症状だろう。こんな薬まで使うのかと、処方箋を見ながら思ったが、家族にも聞きづらかった。何度も処方箋の薬が変わり、家族の方もため息混じりだったので、遂にどんな症状で困っているのと妻が聞いた。すると1ヶ月余りの闘病の様子を教えてくれたらしいのだが、妻はある薬を思いついたらしい。我が家で作っている薬局制剤というもので、単純に言うと安くてよく効く薬だ。  処方箋の患者さんにはOTC薬を勧めないと言う暗黙のルールがあるから、薬を勧めることは出来ない。しかし妻はその家族の不憫を思い、ヤマト薬局で作っている薬を少しだけ分けて与えた。すると2日も経たない間に改善し始めたのだ。そして3日目には処方箋にサンプルで差し上げたヤマト薬局の薬と同じ名前のものが載っていた。医者もその効果を認めたのだろう。  この患者さん家族の方は病院オンリーだから、僕の薬局で薬を買ったことがない。ヤマト薬局を利用する人達なら、何かあったら必ず相談してくれるが、処方箋が唯一の縁の人にはそう言った理解はない。もし薬局を上手く利用してきた人なら、こんな時は気楽に僕に相談してくれていて、もっと早く解決できていたと思う。田舎の一薬剤師でしかないが、病院では出来ないことが出来る武器は色々持っている。高度医療の死角を意外と簡単なもので埋めることが出来る。