たいこ・タイコ・太鼓コンサート

 何も失っていないし、素質もないだろうから、その言葉が当てはまっているのかどうか分からないが、次から次へと出てくるグループの演奏を聴いていて「取り返しがつかない」と何度も思った。 津山鶴丸太鼓は嘗てわざわざ県北まで聴きに行って実力は良く知っていたから、感動ものは当然予想していたが、玉島和太鼓愛好会、吉備の中山龍王太鼓、備中かぐら太鼓、泰山太鼓、和太鼓風人、応神太鼓、水島灘源平太鼓、備中真備太鼓保存会、早島イ草太鼓の全ての演奏が圧巻だった。和太鼓ほど素人とプロが接近している演芸はないと何度聴いても思う。歴史が浅いのかプロとして生計が立てれないのか分からないが、実質もはやどのグループもプロ並みだと思った。  嘗てはただ一つのグループの演奏会に行くだけだったからそんなに思わなかったが、今日沢山のグループを見て確信した。和鼓はほとんど格闘技並の体力がいるから、若い人でないと出来ない。圧倒的な力で迫るにはやはり強靱な肉体が必要とされる。老練さが通用する楽器ではない。それが証拠に今日の演者の多くは二十歳過ぎが多かったみたいだ。中には10代の子も混ざっていてしっかりと伝統が受け継がれていることも知った。もし僕があの年齢の頃和太鼓に出会っていれば絶対やっていたと思う。理屈抜きで太鼓の音が心臓を射抜くのだ。理屈を介して物事を選択してきたから、この感動は僕にとっては希有なものだ。薬剤師的に言えば交換神経が副交感神経を完全に置き去りにしてしまうのだ。3時間僕は正確に刻まれる恍惚の中で「取り返しがつかない」あの頃のことを思い返していた。