農業

 問診の途中で出てきた言葉でこの女性が農業に携わっていることが分かった。相談に来てくれた不調の原因が仕事柄ってことが分かったが、主にそのトラブルで相談に来る人はこの女性より二回りは大きい人ばかりだ。若くしてそのトラブルに陥った不運は気の毒だが、30代の若さで農業に携わっている女性に会えたことは僕にとっては喜びだった。  話しているうちに、勿論病因を探り、改善できる漢方薬を見つけるための会話なのだが、段々女性が美しく見えてきた。その女性は美を売り物にするような人とは全く違い、質素でただただ優しそうな印象だった。ところが話しているうちに、田圃で中腰になって働いている姿や、本人が教えてくれた苗床を中腰で作る作業などを想像している内に、美しく見えてきた。生きることの根本を支えている人達に対する畏敬の念がそうさせるのだ。幸い牛窓は、海と畑に恵まれているから、魚を獲る人達、野菜を作る人達の生き様を目の当たりにすることが出来る。多くは高齢の人だが、中に僕ら世代の人もいる。ところがその女性は、世代が一つ下くらい若い。  例えばテレビなどで目にするのは、空虚に着飾った女性ばかりで、見るのも耐えられないような人物のオンパレードだが、幸運にも実際に薬局の店頭で見る人達は、外見は勿論内面までも飾らない素朴な人が多い。その上そう言った人達が生産活動に日々携わっていたりしたら感動ものだし、それが漁業や農業なら感動を越えて有り難い。僕は、僕らの日常の糧を与えてくれている人達がまず精神的にも満たされ、経済的にも応分の報酬を得るべきだと昔から思っている。  その女性のように、美しい生き方を多くの若い人達が出来るように役人は環境を整えて欲しい。