二者択一

 僕は別に漢方オタクではないから、何を利用しても皆さんが元気になってくれればいいと思っている。このスタンスにブレは全くなくて、漢方を習い始めた頃も今も、OTC大好き人間だし、病院の薬も大敬意を払っている。 この男性を去年見たときは、今日の姿を想像だにできなかった。昨年相談に来た時には、痛い痛いと言いながらもこんなに体の機能を失ってはいなかった。歳も僅か一年で10歳くらい一気にとったように見える。老人と呼ばれるには少し早い人だが、今日見た感じでは老人そのものだ。 僕が漢方薬を2週間分しか作らないのは、もし効かなかったときに効かないものをずるずると飲んで頂くことを極力避けるためだ。効かないと言うのも立派な情報で、次の処方に生かせられる。ところが最初の2週間で効果を感じることが出来なかった人の多くは、漢方薬は効かないものと判断して薬を飲むことを断ち切ってしまう。処方など無限にあるのだから、可能性を探し続けるのが僕らの仕事なのだが、そのチャンスを奪われてしまう。これは現代医療の現場でも同じことがなされている。病院でもらった薬が効かないからと、安易に他の病院を点々とする。同じ治療を何カ所かで受けて効かない効かないと不満を言っている。医師もきっと2の手3の手を用意しているはずなのだが、そのチャンスを奪ってしまう。  この男性も現代医学から漢方へ、漢方から現代医学へ、そして又漢方薬へと漂流している。どうして僕は二者択一なのか不思議でならない。現代医学の切れ味鋭い処方に、漢方薬自然治癒力を増す処方を重ねればどれだけ体調の悪化を防げていただろうと残念でならない。  我が家はいわゆる商売っぽいことをしない。経済を追求しなければ薬局はすこぶる楽しい仕事だから、そこまでしなくてもと家族全員が思っている。だから去る人を引き留めるようなことは絶対にしないが、今日の男性のようなケースを見たりすると、少し声をかけていれば良かったと悔やまれる。  生薬の高騰がこうしたケースを自ずと増やしていくのだろうなと、あの国の経済成長をこれ又恨めしく思う。