迷い

 珍しく帰ってきたから、すぐ懸案の人の検査データを見てもらった。すると3行しかないデータなのに、少し考え込んだ。よその病院と表記方法が違うのかと思って待っていたらおもむろに「この人、だいぶ悪いよ」と言った。そして次に「この人肝臓が悪くなったことある?」と僕に尋ねた。偶然その話は家族の方が昼に来たときにしていた。嘗てある皮膚科の薬で劇症肝炎をやっているのだ。全身に湿疹が出て顔が腫れてもお医者さんは大丈夫と言い続けて、結局は劇症肝炎だったらしいが、その時の経緯などを詳しく聞いていた。「それとこんなに急激に値が変化するときは膵臓を調べた方がいいよ、癌があるかもしれないから」と続けた。 折角帰ってきたのに職業の延長線の話をして悪いと思ったが、これで僕もより深く、より効率的にお世話できる。この方にとっては、現代治療のお手伝いとしての漢方薬だが、息子が心配しているようなことを払拭しておかないと、努力の方向性が全く異なってくる可能性がある。  いつからこんなに酒が強くなったのかと思われるほどよく飲み、それでいて全く顔色も態度も変わらない。自分で酒を解毒する酵素が多いかどうか調べて、どうやら多いらしくて、いくら飲んでも食道や膵臓の癌にはならないなんて言っていた。折角の休みなのでそちらの方面の会話はしないように努めたが、それでも時にはなかなか興味深いことを言う。大きな病院に勤めていたからこその経験も多いが、時にはマイナス面も経験したようだ。色々なことを感じながら仕事をしているんだなと冷たいビールを飲みながら僕も考えていた。  息子に教えて貰ったことを、その検査データの家族に言うべきか朝から迷っている。そこまで薬局に期待などしていないだろうが、知ってしまったからには黙っておくのもどうかと思う。とても献身的にお世話をしているお嬢さんだから、主治医をさしおいても許されると思うのだが。