後ろ姿

 年齢と共に都会に出かけていくのが段々と億劫になった。そんな折り、香川県で漢方の講演会をあるメーカーが開いてくれると言うから、観光がてら出席した。観光がてらというのは失礼だが、実は何を隠そうもっと失礼で、観光ばかりと言っても過言ではない。どこかの田舎議員の視察みたいなものだ。 僕がこれをネタに企画したのは、かの国の若い女性達を連れていって、以前から頼まれていた約束を実現するという一石二鳥なのだ。何も切っ掛けがなければ腰を上げるのに力は入らないが、表向きとは言え漢方の勉強会ともなると、俄然力が沸いてくる。嘗ての生薬大嫌い人間が、今では漢方大好き人間に変わっている。  彼女たちが働いている大きな会社の偉い人が僕を信用してくれて、彼女たちに自由な休日を与えてくれるのだが、こちらはそれなりにプレッシャーを感じる。極端に言うと、車の運転でさえ気を使う。無事に連れて帰ってこないといけないと言う一点で。  漢方の講演が丁度2時間だったので、本来ならその時間は全くフリーになってしまうのだが、それも見知らぬ他県で。だけど今日は、例の自転車青年も一緒に行って貰ったので、安心して2時間は勉強に集中出来た。  かの国の新しい女性達(以前このルートを一緒に辿った二人以外)や自転車青年は珍しそうに瀬戸内海の多島美を眺めていた。その景色が大好き人間の僕も勿論何度見ても飽きない景色と何度感じても飽きない潮風を堪能していたのだが、圧倒的に嬉しいのは、1時間の船旅を楽しんでくれている青年達の後ろ姿を眺めることが出来ることだ。例えば震災で苦しむ東北にボランティアに行くとか、福島から逃げてくる人達を援助するとか出来なくても、分相応のことなら出来る。現役の生活者として大きなことは出来ないが、僕しかできないことはある。田舎、薬局、挫折、権威嫌い・・・キーワードがキーワードだ。