濃厚

 夜の繁華街を連想させるような珍しい言葉を、真っ昼間、僕の薬局で聞いた。 数年前から車で1時間余りの所から来られる人が急に増えた。僕は訪ねたことがないのだが、皆さんの話している内容や気質から想像して、今でもかなり昔ながらのコミュニティーが残っている地域だと思う。その中で先駆的に僕の薬局を見つけてもう何年も通ってきてくれている人が笑い話として教えてくれた。  その方がある会合に出席していて、会合が終わったから「これから漢方薬を貰ってくる」と言って、会場を出ようとしたらしい。するとある出席者が慌てたように近づいてきて「○○薬局には行かない方がいいよ。あそこはぼったくりだから」と教えてくれたのだそうだ。○○薬局は僕も名前は聞いたことがあり、漢方薬を標榜していることも知っている。ただその漢方薬というのがよくある中医学の出来出来の商品を売りつけるだけだと言うことも知っている。余りにもエリアが違いすぎてそれ以上の興味はなかったが、僕のファンになってくれた方に言わせると、薬局に入っていって何か言うととても高額な商品を買わされるらしい。僕の薬局に来はじめて、薬局がどの様なものか理解できて以来一度も行ったことはないらしいが、同じようにぼったくられた人がいてすぐに助言してくれたらしい。 漢方薬と一言で言っても内容は千差万別だ。薬局と言っても又然り、薬剤師と言っても又然りだ。自分の思想と合った知識や形態を誰もが選択しているのだろうが、意図しようが意図しまいが、ぼったくりはいけない。高くて効かないなんて風評は、人口が一杯いる都市部では命取りにはならないかもしれないが(騙しても騙しても新しい客を開発していけばいいのだから)人口が限られている田舎では命取りだ。 テレビや新聞で伝えられることを鵜呑みにする国民性は、都市部の業者に有利だ。薬でも同じだ。ハンディー以外の何も持っていない田舎の薬局がやっていくには漢方薬の効果を追求するしかないのだ。それも田舎の人の経済力が許す範囲内で。ぼったくりもひったくりも田舎にはない。どちらもすぐに見破られるくらい人間関係がよい意味で濃厚だから。