青春

 薬剤師が不在の時は、薬局は閉めなければならない。こんな決まりがあるのに、役所が主催する講習会は必ず平日の日中に開かれる。本当に法律を薬局に守って貰おうと思うなら日曜日に開けばいい。こんな当然すぎる考えも公務員には無理なのだ。己を優先することしか考えていないから、自分を犠牲にするような発想は出来ない。 今日も午後3時からその手のものがあった。岡山市で開催されるから往復の時間と講習会合わせて4時間近く拘束されたことになる。内容はもう何回も聞いているものだから又かと言った感じだ。あちらにしたら帳面を消さないといけないから、何十年も同じことをしているのだろうが、こちらとしたら薬局での充実した時間を奪われることになる。幸い僕の薬局は薬剤師が3人いるから、一人が抜けても薬局を閉めなければならないことはないが、一人薬剤師の薬局はどうしているのだろう。生真面目に薬局を閉めて来ているのか、あるいはこそっと素人が営業を続けているのか。  市民会館を借り切っての講習会だったのだが、いつもはコンサートや演劇のために使われる大きなホールだから、照明が落とされて薄暗くなればとても落ち着いた雰囲気で、5分も目を開いておくことが出来なかった。腰掛けの上での熟睡だから時折目は覚めるが、ものの数十秒で又眠りに入ることが出来る。薬局にいたら懸命に働いて眠気など催さないが、同じ時間帯でも充実感がなければこんなに眠れるのだと、平生の僕に喝采を送りたいくらいだった。  遠路はるばる薄暗くて涼しい場所へ、貴重な時間を潰して昼寝をしに来たようなものだ。出かける前にパソコンの画面に残っている沢山のメールでの報告や相談に後ろ髪を引かれながらやって来たのに、爆睡以外何の得るところもなかった。帰りの車の中で僕は誰にともなく叫んだ。「青春を返せ!」・・・ あれっ。