介護

 ああ、何てことだ、僕は帰るべきところを失った。  僕は30年不思議と飽きることなく続けている薬局人生は、仮初めの姿だと思っている。 青春期、僕が全勢力を費やしたのはパチンコだ。運良くというか運悪くというか、牛窓にはパチンコ屋がなかったから牛窓に帰ってからは一度もパチンコに行っていない。目をつぶればチューリップがまぶたの中で連続で花開く重症の中毒だった僕も、さすがに立地の不便を乗り越える気力は持っていなかった。  30数年、ひょっとしたら40年のブランクを何ともしない腕に覚えがあるから、いずれあの世界に復帰しようと企んでいたのだが、今日ある若い女性の話を聞いてその希望は露と消えた。元パチプロとしてのプライドが許さないのだ。  そのお嬢さんは花の都大東京のパチンコ屋さんで働いていた。帰省したついでに漢方薬を取りに来てくれたのだが、興味があったので東京の暮らしぶりなどを聞いた。その話の中で出てきたのだ、聞きたくなかった内容が。今はパチンコ屋の店員もホテル並のサービスをするんだねと水を向けると、「ほとんど介護の世界ですよ」と妙な答えが返ってきた。どういう意味か分からなかったから再度尋ねると、パチンコファンの大半を今や老人が占めているらしいのだ。だからフォールの中を手を引いて歩いたりする世話が重要な仕事らしい。中には電動の三輪車で店の中にまで入ってくる老人もいると言う。  僕が描いているイメージは嘗てのままで、御法度の裏街道を歩いている人、昼はすることがない夜の蝶、成績の上がらないセールス達、目的もなく大学にはいって登校する気力もない学生達、そんな人間の逃避場所だと思っていた。タバコの煙で命を縮める場所だと思っていた。それがなんだ、なんだ、年金貴族達のたまり場か。  歩くことも出来ない小金持ちの老人達に混じってパチンコの道を究めるなんてことは出来ない。こうなれば何か新しいものに挑戦して人生の最終章を飾りたい。やはりモバゲーか。