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 同じ日に同じような内容で嬉しくなるような話を聞いた。  1年中風邪をひいている方が、ある医院で相談したところ麻黄湯という漢方薬を出してもらったらしい。効いているのか効いていないのか分からないままずるずる飲み続けている。この話を聞いてとても嬉しかった。そもそも麻黄湯というのは風邪の本当のひきはじめでゾクゾク悪寒がして震えるようなときだけに適している薬だ。そのタイミング以外では飲まない。その医師は、風邪の適応があるから出したのだろうが、それなら素人でも出来る。ドラッグストアに行って、自分で効能書きを読んで選んだほうが寧ろ正解に近づける。  僕が日常使っている漢方薬の中で中心に位置している会社がある。○○○○という会社なのだが、台湾で製造しているからとても内容が濃い。そのことは定評がある。そこの会社のセールスが医院に売り込みに行くと、「早く漢方薬が効いて患者さんが来なくなったら困る」と言って断られることがあるそうだ。今の時代でもこんなことがあるんですねと若いセールスが嘆いていたが、早く効かさないと患者が減ってしまう僕などにとっては羨ましい話だ。そう言う意味ではやはり天下の○○○の漢方薬が病院には適しているのだろう。評判を落とすことが廃業まっしぐらの僻地でやっている人間とはバックグラウンドがあまりにも違う。もっともこのバックグラウンドとは精神のと言う意味の大いなる皮肉なのだが。  天下の○○○の人海戦術のおかげで日本中で使われている漢方薬の9割の売り上げを誇り、医師の9割が漢方薬を使っているとも聞く。でも安心した。これなら後何年経っても漢方薬局は追いつかれない。経済ではとても太刀打ちできないが、知識とモラルでは太刀打ちできる。いや顔も太刀打ちできるかな。いやパチンコの腕も、バレーのアタックの早さも、逃げ足の早さも、ツバメをカラスから守る知恵も、居眠りしながら的確に相づちを打つ術も、買えないマンションを下から気づかれないように見上げる格好も。ウム、やはり人生のほとんどの領域で負けている。