一服

 僕に言わせればお嬢さんがおとなしいことに付け入っているとしか思えない。60歳を充分すぎるくらい過ぎているのだから、分別はさすがにもう身に着いているだろうと思うが、お嬢さんへの仕打ちを考えるとそうとは言えない。余程自信がないことの裏返しなのだろう、その年になっても、あの年になっているお嬢さんをまだ幼子のように操る。自分に自信があれば、それが気力だろうが体力だろうが、片方でもあればそんな仕打ちはしないしする必要もない。 逃げられないことをいいことにますます追いつめるから、お嬢さんはまか不思議な病気になっている。それでも耐えているのだから、もう親は鬼のようなものだ。病院では見つけてもらえない原因だと僕にはすぐ分かるが、僕の薬などもってのほかなのだ。大病院の大先生の薬しか駄目らしいが、もう何年も何ら改善していない。だからこそっと僕の薬を毎月注文してくる。匂わない、場所をとらないが唯一の条件なのだ。親に見つかることを極端に恐れている。どうしてあの歳になっているのに、親にあんなに弱いのか不思議だが、長年の力関係なのだろう。インプットされている恐怖からはなかなか脱せれないのだろう。いくら悩みを聞いてあげても行動に移さなければ何も解決しない。よくよく苦痛を聞いてあげた後の僕の提案。「一服盛ってあげようか」我ながらいい薬剤師だ。