「ぞうきんで床を拭きます」と言ってくれたが、そんなことを薬剤師にしてもらうわけにはいかない。薬剤師どころか誰にもして貰えない。そんな必要があれば自分でするが、きれい好きではない僕がそんな必要はほとんど感じないからうまくできている。  ある薬剤師が僕の薬局に行ってもいいですかと言う。薬剤師が訪ねるってことは、業務を見学させてくださいってことだ。ただ訪ねて歓談するようなことはまずあり得ない。そして業務を見学ってことは、あわよくば実際に体験させてくださいってことだ。そして当然こんな不便なところの薬局を指名なのだから、漢方薬に限っての期待だと思う。こうした申し出は僕は即座に断る。考える余地もない。僕の所で見せてあげれるものなどなにもない。暇で一日中何をしようか迷っているくらいだから、これ以上人手が増えたりしたものなら、いよいよ時間を潰すことも出来なくなる。見て貰えるような立派な業務は元々行っていなし、立派な治験もない。漢方薬を作るのがうまくて早いわけでもないし、接客は下品で簡単だし、白衣は汚いし、心はもっと汚いし、顔は福山雅治に似ているし、一体どうしろって言うのだ。そこで僕の口から出た言葉は「いいよ」だった。  そんなに簡単にいい返事が貰えると思っていなかったのか、その薬剤師はとても喜んでくれた。同じ薬剤師のご主人と県外からわざわざやって来るらしい。夫婦揃って僕の体調を心配してくれる善良な二人の役に立てるならと、しおらしいことを考えたのは実は表向きだけで、夫婦が来ている時間帯にこっそり抜け出して、青春期6年の時を費やしてもかなわなかった、パチプロを目指してやろうと思っているのだ。今日こそは今日こそはと毎日挑んでは返り討ちに会っていたあの頃のリベンジを果たそうと思っている。うーん、考えただけでも腕が、いや指が鳴る。