別物

 似て非なるものだと思った。今まで30年近く漢方薬を勉強してきたが、同じ生薬を扱っても、中医学というものと僕らが業としている漢方は別物だった。  舌を診て処方を決めていくのだから、医師に向いていると思った。医師が中心の勉強会だったのだが、こんなに沢山の人が熱心に勉強しているのだと、従来の見方を変えた。今まではお宅っぽい医師がのめり込んでいるのだろうくらいに思っていたが、恐らくすそ野は着実に広がっていて、かの有名なツムラの講演会だったらもっともっと多くの医師が参加しているのではないか。小さい会社主催の講演会でもあのくらい参加者が多かったのだから。  最近はほとんど勉強会に出ないから良く分からないが、漢方薬を学ぼうとしている人数は圧倒的に医師の方が薬剤師より多くて、質も高く上達も早いだろう。僕らが勉強している時代はほとんど薬剤師の独壇場だったからとても楽しく仕事が出来たが、恐らくこれからは、現代薬同様、医師の処方箋に基づいて薬剤師が調剤だけすることになるだろう。おまけに昔ながらの薬局はどんどん閉めていて、医院は逆に増えているのだから、どう見ても多勢に無勢だ。この分野でも下請けが始まる。  息子に講演会を聴いてみたらと案内していたが、出席していなかった。忙しいのもあろうが、興味もないのだろう。若い医師らしき人も結構いたから、同じように学んでくれればと思ったが、今彼を動かす動機は存在しないのだろう。薬局で対応できる疾患は医師の領域から言えば恐らく幼稚なものだろう。薬剤師には出来ないが医師にはその幼稚から高度な領域まで扱える。中医学が僕が学んでいる漢方薬より優っているのかどうかは分からないが、中医学を学んでいる「人」は断然「僕」より優っている。それも数段。圧倒的な医師の質の高さが先か、生薬が枯渇するのが先か分からないが、どちらにしても漢方薬局などと言うものはほとんど存在しなくなるだろう。