ターゲット

 田舎だからと言うわけではないだろうが、多くの人に助けられて漢方薬の腕を磨くことが出来た。一般的には、漢方薬は長く飲まないと効かないと言われているが、僕自身は効果がないのにダラダラと漢方薬を飲んでもらう器量も名声もなかったから、すぐ効く処方を追い求めてきた。しょちゅう顔を合わせる小さな町だから、飲んでもらっている漢方薬が効かなければ、堂々と歩ける道もなくなる。今はもう亡き漢方の先輩に、ある先生を紹介して頂いて、この世に飲んだらすぐ効く漢方薬?処方?があることを教えて頂いた。以来教えられるままに田舎の人の協力で少しずつ使いこなせるようになったが、なにぶんイラの僕のことだから、急性の病気やかなり症状の悪化したものが多かった。幸か不幸か力を試されることの連続だったように思う。  ところが最近、僕自身としては珍しい処方を作る機会が増えていることに気がついた。そもそもその方が漢方薬を標榜しているところでは自然なのかもしれないから、やっと並になれたのかなとも思ったりする。今日も数人作ったのだが、ある人は風邪ばかりひく、ある人は口内炎をくり返す、ある人は単純ヘルペスを毎月のように出す、ある人は食欲が数ヶ月に渡ってない、ある人は朝1時間くらい布団から出られない、ある人は笑わない等々だ。  一言で言うと気力、体力が落ちて免疫を落としているって状態だ。これらのお世話はたいして難しくない。そもそも漢方薬が得意な分野なのだから。しかし、簡単な割には感謝される度合いが大きい。薬の内容よりも、ご本人達の不快さが優っているからだろうか。必至で考えて作った急性の病気に負けない感謝のされようだから、ちょっと照れくさくなったりするが、免疫が落ちている向こうに悪い病気が待ちかまえていることも多いから、余計感謝されるのかもしれない。際どいところで後戻りできている場合も実際多いと思う。  色々な役の立ち方があるが、こうしたゆっくりペースの改善もなかなかいいものだと最近は思えだした。薬剤師も年齢によって役に立てようが異なるのだろうか。心は二十歳、身体は八十の僕としたらどの世代にターゲットを絞ればいいのだろう。