遠吠え

 ラッキー。こんなことで評判がとれるならすぐにでもカリスマ薬局になれる。 長年仕事に行く前になるとお腹が痛くなる男性が、長いことかの有名な大正漢方胃腸薬を飲んでいた。ドラッグで勧められたのか、テレビのコマーシャルを見て買ったのか知らないが、随分長い間服用しているらしい。当然(この当然は僕の知識ではってことだが)効果はない。それなのに何かに頼りたかったのか飲み続けているらしい。  奥さんの膝痛の漢方薬を求めて僕の薬局に来てくれるようになったのだが、1ヶ月間で奥さんの痛みが7割方改善したのを傍で見ていて、ご自分の長年の不調の相談をしてくれた。僕にとっては簡単すぎるようなテーマで、1週間分だけ漢方薬を作ってお渡しした。恐らく1服で改善できると思うが、僕が一番残念だったのは、長い間貴重な生薬資源が無駄に使われたってことだ。自然に生えているものはどんどん少なくなり、かなりの部分が栽培に頼っている。それに輪をかけて中国の一般市民が漢方薬を飲める所得に達し始めている。もう日本に輸出のために生薬はあるものではなくなった。レアアースとまで揶揄されるようになった生薬を、販売だけが目的で扱って欲しくない。効果が期待できる疾患で、効果をもたらすことが出来る人だけが扱うべきだ。資本主義の世の中だからと言って、絶滅危惧種をこれ以上増やす権利はない。  アメリカで生まれた薬の販売形式が、大量消費を前提に生まれたのは間違いない。今の時代に合っているのか、日本に合っているのかはなはだ疑問だ。弱小薬局の遠吠えだが、心ある人に届かないだろうか。自然に顔が揺れている所管の偉い人にも届かないだろうな。あの地位についたら一瞬にして人格が変わってしまうのは世の常らしいから。  あの首振りの薬も僕は作れるのになあ。