踏み台

 やはり僕の勘が当たっていた。例の抗ウツ薬のルボックスなどが新発売された年から急にウツの患者が国内で10数倍に増えておかしいと思っていたが、こうした権威ある人が堂々と声をあげて断言してくれれば心強い。僕らが何を言ってもほとんど愚痴程度にしか評価されないから、世間に対するインパクトはほとんど無い。限りなくゼロに近いくらいだ。  イギリス、カーディフ大学の教授が「製薬会社は薬を売るより病気を売れと言うやり方で、患者の掘り起こしをしてきた。精神科の薬の開発は、科学の衣をまとったマーケティングである」と述べていることを知った。まさに今逆流性食道炎の患者をテレビ宣伝で掘り起こしているのと同じ構図が何年か前に抗ウツ薬で行われたのだ。僕ら素人でも分かるようなことは良心的な専門家なら当然分かることで、川崎医大の青木先生は薬を出す前に出来ることはないかを考えると新聞紙上で述べていた。  家庭や社会環境でウツウツとするようなことは日常茶飯事だ。不運にもぽろっと医師の前で漏らしでもしたら、うつ病にされてしまう。誰かに愚痴を聞いてもらいたいなら、素人から始めるべきだ。回りにそんな人がいないから病院を訪ねるのかもしれないが、犬にだって愚痴をこぼせば楽になることがある。それでウツウツがいくらかでも解消されれば儲けもんだ。製薬会社を儲けもんにしてやる必要はない。何ら法律的には問題はないが、健常な人を病気の範疇に引きずり込んで、薬の最終処分場にするのはいただけない。一生消費者に育て上げ、そこから得た金で裕福になったり幸せになられたりしたら、自覚のない当事者は浮かばれない。大衆はタンパク質で出来た踏み台ではない。