参考

 羨ましい、本当に羨ましい。医師と薬剤師の圧倒的な差なのだろう。もう少し勉強して、いややっていてもそもそもの頭の程度で無理な話だが。 パニック症状がほぼ完治した女性がいる。今は漢方薬を取りに来るが、雑談して用心のため飲んでいようかくらいのノリで漢方薬を持って帰る。車での外出は勿論、人前での発表までが自由に出来だした。肝っ玉をつける漢方薬を作っていたのだが、肝っ玉がつきすぎたかなと思ったのだが、どうやら元に戻っただけだと見た。何故なら話しているうちにこの女性はひょっとしたら人を束ねたり導いたりすることが得てているのではと感じだしたのだ。勿論出しゃばりではないけれど、頼まれたりしたら十分その責務に応えられる人だと思うし、断ったりしない人だと思った。パニックのせいで恐らく色々なことを制限されて忸怩たる思いがあったのだと思う。それが証拠に最初相談に来た日、漢方薬を持って帰るとき感激の余り僕の手を握って、一杯お礼を言ってくれたのだ。そんな経験は僕にはないから「治ったらお礼を言って、漢方薬を作ることは誰でも出来るのだから」と照れ隠しで答えたことを覚えている。 何ら不安のない顔と態度で最近は来てくれるから、過去の困っていた頃の話も平気でしてくれる。勿論最初は病院にかかったのだが、現代薬は効かなかった。それでも当然患者としてはすがる思いで通院し、苦痛を訴える。するとその心優しい先生は「安心して今の薬を飲んでいればいいよ。効かなくなれば沢山強い薬は控えているから」と慰めてくれたらしい。女性はその言葉を聞いて先生の優しさに感極まってうれし泣きした・・・・そんなことあるわきゃないだろう、女性は当然愕然としたのだ。社会不安障害の精神用薬や安定剤と一生付き合わなければならないのかと恐怖を感じたのだ。それはないだろうと心の中で捨てぜりふを言って、病院と手を切ったらしい。その後都会の漢方薬局を経てよりによってこんな田舎の薬局に流れ着いたのだが、何の縁かほぼ完治した。  その後その病院の前を通ることがあるらしいが、ずいぶんと患者さんが増えて流行っていると言っていた。この話はずいぶんと参考になった。治れば来なくなる薬局と違って、縁が切れない病院は流行るのだ。縁を切るために漢方薬を飲み始めてもらう僕らとは真逆だ。僕らの世界では薬を止めるために飲み始めるのだ。そうか、だから流行らないのだ。  羨ましい、本当に羨ましい。もう一度おまけに羨ましい。