ウニ

 子供の頃何処にでもいて親しんでいたウニとは形も大きさも違う。自分の目で見るよりもテレビなどで見る機会の方が多かったと思う。そんなものが牛窓でとれるとは気がつかなかった。近所の布団屋さんが今朝獲ってくれたらしいのだが、頂いて名前も知らないのでは申し訳ないのでインターネットで調べてみると、どうやらムラサキウニと言うらしい。  鋭い棘の先で大きさを測るとソフトボールくらいある。店主が食べ方が分からないなら食べれるようにしてあげようかとせっかく言ってくれたらしいのだが、何故か妻はそれを断って我が家で調理すると言ったらしい。どうして頼まなかったのかと、そのウニを見たときには恨めしかった。棘で被われた球体からどうやって中身を取り出せばいいのか分からなかった。すると妻は、ハサミで切るらしいと教えてくれた。そこで台所のハサミで挑戦し始めたのだが、これがなかなか切れるものではない。まさに歯がたたない状態なのだ。色々と角度を変えてやってみたらコツが分かって少しずつ切れるようになった。ところが一番大きなウニを切っているときに、ウニの殻ではなくはさみの柄が折れてしまった。たった4つのウニを食べるのにハサミ一つを失った。  殻の中には店頭で並ぶ、いや寿司屋で出される綺麗な黄色のウニが入っているのかと思いきや、なにやら怪しげな内臓物に混ざって、くすんだ黄色のウニがほんの少々入っていた。黄色の部分は食用だとは分かるのだが、そのほかの部分はさすがに食べる気がしなかったのでそのまま殻の中に残した。取りだした黄色のものは水で洗うと(このことも店主があらかじめ妻に教えてくれていたらしい)それでも食べてみようかというようなものにまで変身したが、最初その得体の知れないものの中に隠れていたときは、食べてみようとは思わなかった。  一連の作業で皿の上に載ったのはほんの申し訳程度の量だった。一口どころか半口でもあまりそうだ。「ウニはお金を出して買うもの」今日の結論だ。プロの方がどの様な作業の後にあれだけの商品にしてくれるのか分からないが、「高くてもいい」と言う感慨も又今日の結論だ。  僕らが子供の頃何処にでもいたウニは茶色でもっと小さなものだった。棘などずいぶんと短かった。見ただけでぞっとするムラサキウニのそれとは違う。当時毎日のように釣りを楽しんでいたが、しばしば魚の代わりに釣り上げてしまったのはこのウニとヒトデだった。純真な少年とはほど遠かった僕は、針にかかったウニやヒトデを海に戻さずに桟橋の上に捨てて日干しにした。それがたたってその後僕は、ヒトデなしになった。