難解

 ある女性に、ある相談を受けた。体調を詳しく相談表に記入してメールで教えてくれた。その女性はある漢方薬局に行って以前相談したらしいのだが、その答えは「心と腎が生まれつき弱く、そこへ○○剤投与で腎陰が弱まり、その影響で心陰が心陽を冷ますことができず、不眠が発生している」と説明を受けたらしい。そして当然漢方薬を購入している。 僕は恐らく同じ訴えを聞いて「色白でスリムで冷え性で美人でちょっと神経質な頑張りやさんが、副作用で胃をやられてパニくっただけでしょう」とメールで答えておいた。その漢方の知識のかけらもない返信が彼女の琴線に触れたらしく、後日他府県からやって来てくれた。彼女の訴えは上記の不眠ともう一つあったが、もう一つの方は彼女と机を挟んで話しているついでに1包作って飲んでもらったら、その場であっという間に改善した。勿論薬は数時間で体内から排泄されるから効果は持続しないがその後の継続服用で、ほとんど一つの方は完治に近づいている。  それにしても難しい説明を良く覚えていたねと言うと、薬局で紙に書いてくれていたらしい。それはそうだろう、僕だってあんな説明を受ければさっぱり分からない。あの難しい言い回しについていけず、30数年前一度漢方薬の勉強から脱落したのだから、ほとんどトラウマ状態だ。こんなに難しいものが分かるはずがないと得意の諦めの早さを発揮した覚えがある。 その後ある幸運で、効かせることに関しては恐らく誰よりも優れているだろう先生に巡り会えることが出来た。おかげで僕みたいな「生薬学で留年した人間」でも漢方薬で人様のお世話が出来るようになった。今でも多くの薬剤師が難しい理論と格闘しているが、2時間の難解な講義を10秒で要約してしまう無礼を薬局という現場で磨いてきた。とにもかくにも牛窓の人達が田舎という理由だけで漢方薬の恩恵を受けられないことだけは防ぎたかった。「漢方薬のことなら岡山市に出ていかないといけない」とだけは言われたくなかったのだ。何故この分野だけそんな妙な意地をはったのか分からないが、たった一つだけ張った意地のおかげで未だこんな田舎で薬局をやっておられる。  難解は自尊心を心地よく満たしてはくれるが、患者さんの要望はなかなか満たすことは出来ない・・・と見た。