ウツウツ

久しぶりに訪ねてきてくれた。用事はと言うとヤマト薬局特製のクラゲに刺されたときの塗り薬だ。わざわざそれだけのために遠くから来てくれるから、ちょっとしたそんな薬を作るのにも喜びがある。でも本当はもっと嬉しいのだ。彼が本来必要なものだけを取りに来てくれたことが。  以前彼は、本来とはとてつもなくかけ離れたトラブルを解決するために通い続けてきてくれた。トライアスロンもなんのその、正確な言葉かどうか知らないがライフセーバー(海の安全を守るボランティア?)までこなしている体育会系どっぷりの彼が、その手腕を見込まれある大きな会社で部下を数百人もつ地位についた。前任者達もその責任に押しつぶされた魔の地位らしいのだが、外国人なみの体力の持ち主の彼に白羽の矢が刺さったのだろう。名誉なことではあるが彼も又前任者達のように過酷な仕事で心を折った。  こうしたときの常套手段は、心療内科にかかり抗ウツ薬や安定剤、果ては睡眠薬などを処方され1年くらい会社を休むらしいのだが、彼はそれを欲しなかった。診断書をもらうために病院にはかかったが、薬はいっさい飲まなかった。その代わり僕の所に相談に来て、漢方薬で克服することにした。来るたびに美味しいコーヒーを飲みながら一杯話をし2週間分ずつ漢方薬を持って帰った。僕は彼が鬱病なんかにはとても見えなかった。彼は体格は僕とは天地の差だったが、性格はとても似ていた。だから彼の陥っている状態が手に取るように分かった。僕に言わせれば単なる頑張りすぎ病なのだ。これは病気ではなく長所だ。それを病院にかかると鬱病という。僕は彼の改善をつぶさに見ながら、僕を頼ってきてくれる人達の心のトラブルは病院にかかれば鬱病、僕がお世話すれば「ウツウツ」と言うことに気がついた。以来、多くの方をお世話したが、ほぼ100%近く「ウツウツの漢方薬で」復活してもらっている。同じ処方でパニックの人達もずいぶんと改善してもらえることに気がついた。その人達のネットワークはずいぶんと発達しているらしくて、紹介の紹介の紹介と多くの人が相談してくれるが、こちらの方もかなりの確率で脱出してもらっている。  専門家を勿論否定するわけでない。薬局なんかではとても手に負えない人は多い。ただ、軽々しくウツ病薬を飲まされている人達がいることも事実だ。門前薬局ではないから僕は自由にものが言えるし、漢方薬も頼まれれば作れる。以来どれだけのウツウツやパニックの人を解放できただろう。以前にも書いたが、元々は僕自身が1日16時間以上、数ヶ月働き続けて心が折れたときに自分用に考えた処方だから、同じような人には効くに決まっている。あの時相談した息子が僕に安定剤などを出さず「こんな時こそお父さん漢方薬だろう」と言ってくれたことで多くの人を救えた。今日も数人のウツウツの人と「楽しく」一杯話が出来た。ウツの人があんなに楽しく話しては笑わない。僅か数ヶ月で脱出していく人達を見て、現代の生きにくさと、治療自体を泥臭く、又楽しくする必要を感じている。