逆転

 こんな田舎だからそんな人は来ないだろうと思っていたが、注意喚起のFAXを薬剤師会からもらって1時間くらいで問題の人物らしき人が来た。 全国的に問題になっていて、薬剤師会からの注意喚起はもちろんのこと報道番組でも時々目にしていた。睡眠薬をはじめとする心療内科、精神科関連の薬を医者をハシゴしてかき集めて乱用したり売ったりしているというものだ。窓口での負担がない人が、もちろんそうでないと原価がかかってしまうから利幅が薄くなるのだろうから、仮病を使って医療機関をハシゴする。その都度希望の精神用薬を処方してもらって原資を集めるのだ。それでも足りないのか処方せんをコピーして効率よく薬を集めようとする。こうなると法律違反だから医療機関と言うよりも警察の仕事になる。  最近のコピーは性能がいいから処方せんくらいそれらしく複写するのは簡単だ。調剤した薬局が基金からお金を受け取れないことで発覚するのだろうが、全部薬局の持ち出しだ。医療機関が簡単に薬を処方するとばっちりを薬局が受けることになる。医師の時点で見破ってよと言いたくなるが、医師も同じような悩みを抱えているらしい。アメリカで医者をしている人が投稿していた。 「例え嘘を付いている(であろう)患者さんを見つけ出しても、処方箋を出さないことで患者を「罰して」終結できるわけではない。発見は、辛い会話のほんの始まりでしかない。痛みがうまくコントロールできていないために大量に服用していただけなのか、それとも自分で粉末にして鼻から吸引していたのか。また、余った薬を売っていたのか、ティーンエージャーの息子に脅されて手渡しているのか。誰かが“ハイ”になるために使ったかもしれない薬を処方してしまったという空しさと、それを見抜けなかった無念さ、嘘をついていた患者への怒り。そして何よりも、そうまでして薬を手に入れていた患者への哀れみという、相反する感情で胸が一杯になる。じっくり患者の話を聞いて、精神科や中毒患者用のプログラムの受診を懸命に勧めても、行ってくれる人は少ない。処方薬による中毒が社会を蝕んでいる限り、私たちの葛藤は続くのだと覚悟している。」  善良な医師の真摯に悩んでいる姿を見ると責める気持ちにはなれないが、どうしてこんな見え見えのことを役人は見て見ぬ振りをするのだろう。善良な人々のちょっとしたミスには厳しいくせに、その筋の人間に対しては自分の身を守ることだけに腐心している。もっとも放射能でさえ浴びせさせてなんとも思わないのだから良心などと言うもはどこかに捨ててしまっているのだろう。 意地でも睡眠薬を手に入れようとする堅牢そうな患者と、それを断る睡眠薬中毒みたいな覇気のない僕と、肩書き一つで逆転する。