無防備

 早く飛ぶことだけが唯一の武器のようなツバメが沢山、無防備にもテニスコートに降り立っている。地上では身を守る術がないだろうと思うが、僕がコートに入っても飛び立たない。周回コースでやっと接近したときに一斉に飛び立った。夏の太陽が朝から頑張っているがテニスコートの上にはまだ前日降った雨が所々に水たまりを作っている。こうしたツバメの集団行動は初めてではなく時々見られる。ツバメたちは一体何をしていたのだろうと思った。雨上がりは餌になる虫たちが地上を這うのか、それともツバメたちも水なしでは生きることができないだろうから水たまりの水を飲んでいるのか。  こうした疑問など嘗て持ったことはない。自然溢れる田舎で育ったが自然は単なる風景で興味の対象ではなかった。ツバメがテニスコートに一杯下りていたなんて話しても興味を持つような人もいないだろうし、理由を答えてくれそうな人も僕の回りにはいない。バードウォッチングの会の人にでも尋ねたらすぐ正解をくれるのだろうが、僕の傍には焼き鳥しか見えない人ばかりだ。興味あるのは飛んでいる鳥ではなく、タレが濃い口か薄口かくらいなものだ。  何となく答えらしきものを知りたかったので、インターネットで検索してみた。僕が勝手に導いたのは、雨上がりの柔らかくなったテニスコートに下りて巣作りのための泥をついばんでいたと言う結論だ。何故なら目を凝らしてツバメたちがいた土の上を見ても生き物らしきものは見えなかったし、ツバメは水面を飛びながら水を飲むとインターネット上に書かれていたから、他に地上に下りる理由がないのだ。消去法の頼りない見当だが、今更この季節になって巣を作るのだろうかという前提もあやふやだ。  苦肉の策で始めた朝晩のウォーキングで結構自然と触れ合える。今朝もカラスにハトにツバメにスズメにもう一つ名前が思い出せない鳥に、いや思い出せそうだ、僕の頭に似た・・・・そうだシジュウカラ(四十空or始終空)にも会えた。