脇道

 その車は横道から僕が走っている主要道に出てきた。形からして食料品を運んでいるトラックだろう。恐らくルート配達の車ではないか。日曜日の朝、いつものコースをいつもの慣れた気持ちで回っていたのだろうが、偶然僕の前を走ることになった。その間1分も走ってはいないのではないかと思うが、突然旗を持って現れた警察官に呼び止められ脇道に誘導された。 僕はかなり制限速度に余裕を持って走っていたが、その車が僕からどんどん遠ざかるような感じには見えなかった。ただスピードの計測器が隠れるように設置されていたから確かに速度オーバーだったのだろうが、極め付きって感じはしなかった。何気ない1日がその人にとってはとんだ幕開けになったのではないか。あのスピードだから悪意はほとんどなかったのだろうが、ほんのちょっとした不注意が1日を曇らせる。誰にでもあることだ。 何もない1日が愛おしくなるほど、日常が険しくなっている。体力も気力も落ちてきた上に、責任や義務が重くのしかかる。夢も希望もないのに歩みを止めることが出来ない。明日の約束を今日破る程の不義理も電線を泣かす風ほど痛くはない。正しくあれ、強くあれと波打つ湖面で水鳥達が激しく揺れる。澄み切った空が讃えられるのなら僕は雨を待つ。じとじとと空気を湿らせる雨を待つ。心を濡らせる雨を待つ。