高貴

 大学病院の先生に「もうこの子は学校に行くことは出来ないでしょう」と言われていたことを今日お母さんから初めて教えてもらった。ではこの僕が丁度1ヶ月漢方薬を飲んでもらって冬休み明けから完全に登校しているのはなんだろうと思う。漢方薬を飲んでもらったのは12月の9日からだからまだ1ヶ月あまりだ。 このお子さんの相談にお母さんが来られ教えて頂いた症状は、頭痛、フラフラする、腹痛、光がまぶしい、臭いが鼻につく、悪夢を見る、冷えのぼせ、登校前に下痢をする、やる気、根気、元気がないだった。最初かかった医院で抗ウツ薬を渡されお母さんがびっくりして大学病院に行ったらしいのだが、所詮僕は起立性調節障害でしかないと思った。だからいつものように簡単に引き受けて漢方薬を作ったのだが、当然よく効いてくれた。どうして立派な先生が「もう学校には行けないでしょう」と言われたのか良く分からないが、こう言ったときには僕みたいな程度の低い方が役に立てるのかもしれない。薬局は難しい検査も出来ないから、ただ元気にしてあげれば治ると思ったのだ。単純と言えば単純だが、30年も人を見てきていれば検査では証明できないことも分かることがある。  あのまま病院にかかっていればそのお子さんは、ずっと不登校のままだったのだろうか。そうしてみると僕はとんでもない大事業をしたことになるが、漢方薬が分かっている人なら誰でも出来る程度のことだ。ただ、この漢方をやっている人というのがずいぶんと減ってきて、残っている人の中でも真面目に謙遜に取り組んでいる人と、神懸かり的な商売熱心な人とに別れている。漢方薬の高騰で将来お金持ちしか飲めなくなる可能性があるから、神懸かり的なところはますます繁盛し、そうでないところも、自分を殺してプライドを捨て、慣れない高貴なお方ばかりを応対しなければならない時代が来るかもしれない。どこにでもいる人を、どこにでもいるような人間が漢方薬を使って治すという当たり前の光景が近い将来なくなる危険性がある。僕もその時に備えて、ネクタイの結び方を覚えて、ざあます言葉を覚えて、ごますりを覚えて、お金の臭いを覚えて準備しておかなければならない。そしてそのあげく本性を見抜かれたときは「身に覚えがありません」と言う言葉も覚えておかなければならない。