金縛り

 同じ薬草を使うから一見同じように見えるかもしれないが、実は漢方薬中医学はかなり考え方が違う。こうしたことに気がついたのは、中医学を学んだお医者さんからの処方せんを持ってわざわざ遠くからやってくる人が数人いるからだ。この半年くらい前からの出来事なのだが、最初は何のことだか分からなかった。お医者さんが折角漢方薬の処方せんを切っても、それを調剤してくれる薬局が病院の傍にも近所にもないから持ってくるらしくて、その内容たるや僕らが日常作っている漢方薬の10倍くらいの量の薬草を使っているから、「なんじゃこりゃあ」と言うのが正直な感想だった。でもこれもありだと漢方の問屋さんに教えてもらって、今は一所懸命調剤している。これがかの有名な中医学というものかと感慨を持って作っているが、巷で売られている薬局やドラッグの中医学とはかなり違っている。治そうとする人と売ろうとする人の違い、あるいは医師と薬剤師の違いとでも言えようか。  さて、僕らの漢方薬との違いはさておいて、莫大な量の漢方薬を飲むにあたって患者さんに感謝の心が少ない。保険で3割負担なのにそれでも高いと不満を言う。絶滅さえ懸念されている自然の生薬をふんだんに使ってもらって高いと言い、効果にも不満が多い。現代医学で手に負えないからその医師を訪ねて行っているはずなのに、なかなか感謝の言葉が聞けない。なるほど、漢方薬を極めたお医者さんは、そのうち保険診療を止めていくと言われているのが良く分かる。気の巡りを重視し、体のバランスを整えながら治療しようとしている人が、その「気」が欠けた人を相手するのはかなり不愉快だろう。助けられる人、助けなけらばならない人を多く持っているそうした名医にとってはかなりの屈辱ではないか。そう言う僕の先生の先生もそうした人の中の一人で、保険診療を止めて良い患者さんだけを治療したらしい。その先生は他界したが、今でも自費で診療しているお医者さんはいる。治りたい患者さんを治したい医師がお世話する。当たり前のことだが、患者さんも医師も共に努力する。養生もせずに、ひたすら批判ばかりで治ったりしたら運が良すぎる。  運がよいのか悪いのか分からないが(いや、運ではなく頭なのだが)所詮薬剤師の僕は、全額自己負担の是非治したい患者さんに恵まれている。お金を頂く緊張感はプレッシャーと言うより責任感だ。これが本当の金縛り。お後がよろしいようで~