テニスコートでもさすがに雨上がりだと水たまりを作っていて、歩くのは躊躇われた。試みに少しだけ歩いてみると早速滑って倒れそうになった。そのせいで大きな靴跡、いや滑り跡を残してしまった。勿論僕が歩くのはボールが跳ねるコート外だから実質的な迷惑はかけないだろうが、不法侵入がばれてしまう。テニスコートの表面は粗い砂が敷かれていて水はけはよいように見えるのだが、見た目より多く水を含んでいるのが分かった。 僕の命綱の朝のウォーミングアップを欠かしたくなかったので、フェンスの傍の放置された草の上を試しに歩いてみた。草はまだ雨を含んでいるが、スリッパは水を弾きそうに見えたので、足が濡れる心配はない。するとどうだろう、さっきの土の上のぬかるむ感触は全くなく、何の抵抗もなく歩けた。晴れた日に土の上を歩いているのと同じだ。寧ろ柔らかい草の上だから足にかかる負荷は少ないのかもしれない。  根の力を漠然と感じた。見える部分は見向きもされない単なる草でしかないが、地中に張っている根の力たるやどうだ。60数kgの僕の体重をしなやかに受け止め、砂の粒子が持ちこたえることが出来なくてずるのをいともたやすく防いでいる。地上に見える茎や葉に比べてどれくらいの根が地下に延びているのか分からないが、その実力に驚く。この実力は山の斜面や土手、堤防、あぜ道など多くの場所で生かされているに違いない。もし草がなかったら、崩れ落ちる斜面はいっぱいあるのではないか。どんなに見下げられた命にも大きな意味を含んでいる。何一つ無駄なものなどないと教えられる。 所詮、雑草のくせに根無し草のような人生でなかったかと、踏みつけてしまった草にまで教えられる。