失望

 同席した二人の女性薬剤師に、店頭で対処に困っている患者さんの処方を尋ねられた。一人の薬剤師は、がんで胃を全部摘出した方の貧血と、血小板が少ない方の対処法。もう一人の薬剤師は両手に広がる痒疹で困っている方と、足が引きつって歩きにくい方の対処法。二人とももう1〇年は熱心に漢方薬を勉強している方。他県から熱心に勉強会に通ってきている。  昨年から薬の郵送販売が一部規制されているが、これに反対している漢方薬局の団体に厚生労働省から一つの答えが来たらしいが、「漢方薬を含め薬にはリスクがある。遠くにある薬局に行けないなら、近くの薬局に送ってもらい、そこの薬剤師が説明をする方法もある」と言う滑稽なものだったらしい。と言うのは、漢方薬をある程度分かっている薬局が、各県にいったい何軒あるだろうか。僕はひょっとしたら片手で数えるくらいしかないのではと思っている。基準を下げれば両手、もっと下げれば両手両足くらいはあるのかもしれないが、でもそれでは依頼する側が不安だ。いやもらう方も不安だろう。今医院の傍に薬局を出せば簡単に食っていける時代に、わざわざ不効率な薬局製剤の許可を取って営業しようとする薬局がどのくらいあるだろう。それよりも昔からの普通の薬局はどんどん廃業している。優秀な若い薬剤師はほとんど研究畑や製薬企業、病院、調剤薬局に行き、町の薬局には滅多に見られない。廃業寸前の優秀なスタッフが育たない薬局に、懸命の思いで作った薬を送って「安全」が担保されると思っているのだろうか。 上記の二人の女性薬剤師は、それぞれが薬局を経営していてもう漢方薬もかなりの実力を付けている。それでも尚僕が数秒で答えられるような質問をしてくる。それはひとえに3〇年近く勉強した僕の方が年数だけで優っているからなのだ。才能だけでは越えられない時間の壁がある。それだけの経験を要する漢方薬について、何ら勉強していない薬剤師が答えられるはずがない。誰を守って、何を守って作られた規則か知らないが、少なくとも病気で困っている人を守るのではなく業界を守るために出来た規則だろう。病院では治して貰えない苦しみであえいでいる人達の声は、恵まれた地位にいる人達には届かないのだろうか。業界より人を守るよう訴える声は又してもかき消されるのか。時代が変わり、やっと主役になれると思った人達の失望は大きい。