真剣勝負

 もう完治して連絡は全くないが、お嬢さんの過敏性腸症候群漢方薬を注文してくるのがお父さんのお家があった。勿論お嬢さんは高校生だったから、自分で症状の説明などもしてくれたのだが、お父さんの登場はとても珍しいケースだった。僕は最初にお父さんから電話を頂いたときに、ああ、ここのお家はお嬢さんを治すことが出来ると直感的に思った。  今日、隣の県から訪ねてきてくださった方も、それこそ治るに決まっていると感じた。ご主人が連れてきてくださったのだが、夫がこんなに真剣に奥さんの心配をされるお家を余り知らないのだ。ほとんどのお家は妻の不調に冷淡か無視だ。成す手がないのをごまかすために病院行きを強制したり、果ては不調を責めたりするのが関の山だ。奥さんの病状を理解していることも珍しい。見て見ぬ振りをする方が楽なのだ。不調を一緒に背負うほど、又立ち向かっていくほど男は病気に対して強くない。  一杯話を聞くことが出来たが、想像していたとおりなのだ。ご主人が事細かく教えていてくれたとおりだったのだ。夫婦の会話が豊富なのか、ご主人が心配して奥さんに尋ねているのか分からないが、僕が常々口にする相克の関係では全くない。こんな夫婦もおられるのだと頑なに相克論を展開することがはばかれる。  帰りが近くなった頃、奥さんがとてもにこやかになった。遠路来て下さって疲れていただろうに、あの笑顔の連続は僕には最高のプレゼントだった。健康相談で都会から田舎にやってくるのは抵抗があるかもしれないが、田舎の薬局は真剣勝負だって事を少しでも垣間見て貰えたら幸せだ。数撃てば当たるほど人の数がない町で腕を磨かなければならないのだから。