危惧

 今日、面白い便りをもらった。もうこんな危惧を抱かれる年齢になったのかと、あるいはやっていかれなくなるほど暇な薬局に見えるのかと、どちらにしても心許ないのだろう。 「お久しぶりです。○○県の○○です。最近彼氏とうまくいってます!以前の自分だったら、絶対に味わえなかった幸せなので、すごく嬉しいです。たまーに下痢をしてしまうことがあるんですけど、ヤマト先生の漢方を飲みながらマイペースに治してます(^-^)最近、久しぶりに下痢が続いて漢方を飲んでた時にふと、この漢方が飲めなくなったらどおしょーって、不安になりました。バカみたいな質問ですけど、ヤマト薬局がなくなることってありますか?」 彼女は恋多き女性だったが、過敏性腸症候群でことごとく失恋していた。どんな女性だろうと興味を持っていたらいつか訪ねてきてくれて、その魅力的な風貌や態度に驚いたものだ。これだったら恋多き女性ではなく、恋多くされる女性だと思ったのだ。僕の拙い男性側からの恋愛心理を披露すると彼女は何故か勇気を持ってくれて、その結果がこの便りだ。 それはさておいて、彼女にとって今はほとんど必要が無くてもひょっと又必要になることがあるかもしれない処方は大切だろう。彼女だけではなく、僕の薬局を利用してくれている人全ての懸念でもある。僕の場合は、製薬会社が作った商品を飲んでもらっている人の方が寧ろ少ないので、その点は自分自身でもかなり以前から考えて準備をしてきた。薬剤師なら誰が見ても対処できる処方集、今までお世話させて頂いている人達の記録、この2つと、それにもまして漢方薬に興味を持った薬剤師の存在も大切だ。この3点をクリアしているから、安心してねと返事を書いた。  僕の属している漢方研究会でも数人の先輩達が亡くなられ薬局が絶たれた。何人かの方々が紹介されその後訪ねてこられたが、データーがないから全く同じくすりを作ってあげることはできなかった。後継者がいたらそんなことは起こらなかっただろうが、漢方薬が分かるには年数がかかるのでなかなか跡は継いで貰えない。門前薬局を開けば簡単に収入を得られるから、優秀な若い薬剤師はそちらに流れる。中国の人件費が高騰し、生薬の値段が庶民が手のとどかいないものになって廃れるか、跡継ぎがいなくなって廃れるか、僕はこの世界の将来を楽観していない。誰もが適正な価格で正しい漢方薬を飲める。こんな簡単だが大切なテーマのために、僕は恋多くされる女性の処方を念のため確かめた。想い出と共に大切にとってある。