睡魔

 梅雨が上がってしまったかのような強烈な太陽が、車内の温度を容赦なく上げる。恐らくエアコンのガスが無くなったのだろう、なま暖かい空気が大きな音を立てて吹き出されるが、身体は充分汗ばんでいる。1時間の帰りを運転するには睡魔が激しすぎて、缶コーヒーとドリンク剤でカフェイン攻めにしてみたが効果は余り無かった。田園地帯にさしかかったとき、水を張った田圃に4人の大人が入り、全員が腰をかがめて雑草取りをしていたのを見たとき、昼下がりに大したこともせず睡魔と戦いながら車を運転している自分が、たまらなく怠惰に思えた。 電話の向こうの息づかいは尋常でないのはすぐ分かった。喘息発作が出ているのに家族ではなく自分が電話をしてきた。その発作を僕の力ではどうしようもない。時間帯からしてそのまま朝を待つのは危険だと思った。ある病院に行くように助言したが、家族は酒を飲んでいて連れて行ってもらえない。恐らく自分で車を運転して行くに違いない。戦前の女性は芯が強いのか忍耐強いのか分からないが、家族にでさえ助けを求めない人もいる。  昨夜の無能ぶりに自己嫌悪気味な一日だった。襲ってきた睡魔は、何もしてあげれずにうつらうつらと夜明けを待った代償か。青春の頃、強烈な動機付けが出来る出来事に遭遇していれば、もう少しはまっとうな学生生活を送っていたかもしれない。目的もなくその日その日をごまかして生きてきたせいで、頼ってきた電話を裏切ることになる。炎天下の雑草取りに追い返されるのは、僕の青春を、いや人生の全般を覆っていた泥色に濁った睡魔か。