元の木阿弥

 忍耐にもきりがある。思わず切れそうだった。何回同じことを繰り返せば気が済むのだろうと思うが、もうどうにもその習性は変わらないのだろう。いちいち腹を立てない人間にこちらが変わる方が未だ可能性があるかも知れない。  腕と腰と膝が痛む初老の女性がいる。痛みとしびれで日常生活は少し制限される。僕の煎じ薬と天然薬でかなりの所まで良くなって、今は余程の無理以外は出来るようになった。この奥さんは、僕の所に来るまでは、お医者さんにかかりながら健康食品を愛用していた。幾種類か飲んでいるのだろう。僕が薬を作りだして少しずつ良くなっていったので、健康食品は止めた。痛みが良くなると当然だが漢方薬を取りには来なくなる。それはそれでいいのだが、その間健康食品を又始める。すると次第に痛みが復活して元の木阿弥になる。良くなったら漢方薬は止めてもいいから、天然薬だけでも続けておいたらと遠慮気味に言うのだが、どうしても健康食品とやらを飲む。これを何回も繰り返し、今回も又やってきた。折しもニュースでチャンピオンかなんとか言うサプリメントに消臭効果がないということが報じられていた。当たり前の話だと思うのだが、20億円も売っていたのだからなんて世界だと思う。   いつから、この国の人達はこんなに無防備になったのかと思うが、一薬剤師が嘆いても仕方ない。縁のある人を少しだけ健康に出来れば分相応だと思っているが、出来れば田舎の純朴な人にまで浸蝕してもらいたくない。海もあり山もあり、澄んだ空の下で暮らしているのだから、工場で作ったものよりも遙かに自然なものや、遙かに健康的なものを日々摂っている。健康という名の不健康食品や、サプリメントという名の化学薬品は必要にない。さっきまで泳いでいた魚、さっきまで根を張っていた野菜。これらに優る物を知らない。手を加えた回数が多くなるに従って、自然からは遠ざかる。この不自然さは自然の通り。