コウモリ

 中国自動車道を利用するときに必ず立ち寄るサービスエリアに昨日も立ち寄った。黒い大きなワゴンのすぐ傍に車を着けたので、助手席から降りようとする母に、ドアで隣の車を傷つけないように注意した。僕の車との狭い空間で、男が2人でサイドミラーをやたらいじっていた。角度をあわせるだけなら運転席に人がいて、調節するのが通常だと思うからそれではないらしい。あまりの熱心さに覗いてみると、何とヒットメーカーのMだった。得意の帽子を後ろかぶりしていた。良くテレビで見る姿と同じだ。コンサートがどこかであるのか、何かの出演か僕には分からないが、2人がサイドミラーをいじっている姿が何故か滑稽だった。車の中で母がトイレから帰ってくるのを待っていると、同じ方向から、如何にもミュージシャンという格好の男がやってきた。背中までのばした茶髪、何かのロゴを印刷したTシャツ、破れたように見せかけたジーパン、鎖を初めとした飾り物。案の定僕の隣の車に乗り込んだ。  背中まで伸ばしたぼさぼさの髪、カビが生えたTシャツ、破れたジーパン、飾るものなど何もない粗末ないでたち。嘗ての僕と似てはいるけれど、全く異質な青年に興味もわかない。残念だけれど、その青年の表情よりも、光り物の飾りばかりが目に入ってくる。人間が輝かないで、いでたちばかりが輝いている。初夏を思わせる強い日差しの中でコウモリが飛んでいる。光り物で固めたコウモリが飛んでいる。