黄金色の船

 もう、どのくらい前のことだろう。僕の薬局で気を失ったおじいさんがいて、救急車を呼んだ事がある。そのおじいさんはその後、元気に退院されたのだが、後日談がある。あの日僕と話していて気が遠くなったらしい。すると、牛窓の港に、黄金色の船がいて、その上に知っている人が沢山乗っていたらしい。皆がおいでおいでと招いてくれたのだが、誰かが呼びとめてくれたので船に乗らなかったらしい。知人たちは全員死んだ人だったらしい。呼びとめてくれた人はどうも僕らしくて、気を失っていたその人の名を何回も呼んでいたのだ。この種の話しは何度か聞いたことがあるからどうやら本当らしい。  今日もまた同じことかと思った。ある女性が、入ってくるなり胸が苦しいと言い出した。まもなく女性はソファーに横たわり胸を抑えていた。話すことは出来たが苦しそうだった。僕は救急車を呼ぶタイミングを逃さないように気を付けながら、よく知っている人なので色々尋ねてみた。今日薬局には歯痛の薬を買いに来たらしい。虫歯があるのと尋ねたらないらしい。僕は彼女の歯痛も今横になって苦しんでいるのも、同じ心臓のトラブルではないかと思った。急を要するので、僕はある漢方薬を急いで彼女に与えた。すると数分もしないうちにがばっと起きて、治ったと不思議そうに言った。見ていて楽になるのが分かったが、手のひらをかえす様に回復した。  僕は薬剤師だから診断は出来ない。逆に診断が出来ないから、効きそうなやつをぽいと与えることが出来る。今日の女性にはとても奏効した。目の前で数分のうちに回復する姿を見て、今日の1日が救われた。