一粒の薬

 気が立っているのか、このところ5時間くらいしか眠れない。12時を回って寝るが、5時から6時の間には、きっちり目が覚めてしまう。いったん目が覚めると眠れない性質なので、調剤室に降りていき薬を作る。特別養護老人ホームの薬は、幾つもの薬をいったんばらして、朝は朝で一袋に、昼は昼で一袋に、夜は夜で・・・だから、60人も作ればかなりの薬の空のシートが捨てられる。先進国では、製薬会社の寸分の間違いも許されないので、厳重な包装になっている。服用の間違いが起こらないように、シートの印刷も豊富だ。大きなごみ袋に収まらないくらいの、戦いの跡を見ていると、この国の豊さがよく分かる。おいしいものを食べすぎて発症した糖尿、痛風高脂血症を軽減する為にどれくらいの資源が費やされているか。医者や薬局の賃金、薬の研究、材料費、製造コスト、運賃などなど。恐らく美味しい酒を飲み、肉を食べ、甘いものに目がなかった人達の贅沢の結果を救うために、こんなに高価な薬が使われる。僕がシートから落とす一粒で、恐らくアフリカで飢えた子供の数日の命を救える。  もっともっととお金を追い、その結果自家用ジェット機を持つものもいる。その1回のフライトで何万人の命を救うことが出来るだろう。いつのまにかお金が名誉が幸せの象徴のような風潮に無批判になった。以前はほとんどの人が気がついていた。お金では買えないものがあると。その共通の認識が個人や社会の暴走を防いでいた。今はその歯止めはなかなか見当たらない。失うものを失くするまで気がつかないのだろうか。