薬局の嫁さん

 今日、ある薬を取りに来たおばちゃんが「あーあ、薬局の嫁さんになりたかった」と言って出て行った。この方は、神戸の震災で家を失い牛窓に来た方だ。当初、牛窓に知人もなく、口を開けば牛窓とその住人の悪口だった。田舎なので悪意を持った人は少ないのだが、都会人の理由のないプライドが、疎外感を味わって何かを攻撃しなければ気が収まらなかったのかもしれない。往々にして、不本意牛窓にやってきた人は、あたかも自分が優れているかのように、過去を吹聴し、その結果ひたすら孤立していく。  この方は病気が縁で薬局に来てくれるようになったが、僕が当時勧めたものが劇的に効いて、以来ずっとその薬のファンだ。ただ残念なことに少し高くて、毎日は飲み辛い。僕の薬局では毎日飲んでいる方も数人いるが、それは特別経済に恵まれているから出来ることだし、命を買ってもらっているから出来ることだ。おばちゃんは、実は毎日飲みたいのだ。毎日飲んだらどれくらい元気になれるか彼女は知っているのだ。2~3日に1本飲んでいるが、毎日飲みたいのだ。だから薬局の奥さんになれば、毎日飲んで元気でおられると想像したのだろう。  安易な発想だが、何故かせつない気もする。経済が健康を左右してしまうのだ。田舎に立地している為、経済的には質素な方が多い。その方々の負担にならない金額で薬りを作り、健康を勝ち得てもらわなければならない。  さしずめ僕なら「ラーメン屋の息子になりたかった」