窒息

 泥が鼻の中にまで入ってきて窒息するのは苦しいだろうな。濁流に飲まれ浮きあがれずに流されるのは苦しいだろうな。同じように生まれてきて、同じように暮らしてきて、少しは社会の役に立って、少しは人を救い、少しは人を慰めたのに、なんであんなに苦しい最期を迎えるのだろう。ニュースは大雨の被害を伝えている。被害のほとんどは山間部だ。山間部に住む人って、どうしてあんなに善良そうで、素朴そうで、文句ひとつ言わないのだろう。だから被害の映像が余計心を打つ。  一様に「経験がない」くらいの災害がここ何年も襲ってくる。当事者から出る「経験がない」はもう経験済みの陳腐な言葉になりつつある。なんでこんなに災害が、それも日常ありふれた光景として連続するのだろう。これ以上何を豊にすれば、先進国の人間たちは満足するのか。作られた欲望は、化石燃料を使い切って地球を温暖化させ暴力的にしている。都市で燃やした欲望の札束が、山間部の老いた老夫婦を埋め、純朴な高校生を流した。