紹介

 今日、岡山の街で明かに僕に向かって微笑みながら近づいてくる男性がいた。僕は自分を指差し、「どこかでお会いしましたっけ、でも僕は覚えていないかもしれないから失礼に思わないで下さい」とすぐに先手を打った。僕は人を覚えるのがかなり苦手で、カルテは薬剤師さんがしばしば僕の代わりに揃えてくれる。彼は、数年前不妊症で奥さんが世話になり、赤ちゃんを授かったと教えてくれた。その瞬間僕は彼を思い出した。奥さんに付いて何回か来たような記憶がある。当時に比べ数段、恰幅がよくなっていたので余計分からなかったのかもしれないけれど、自分でも言っていたがメタボリックシンドロームの典型みたいに太っていた。そのうち、奥さんと3歳になる男の子が現れ、奥さんの顔を見た瞬間全ての記憶がよみがえった。住所もすぐ思い出した。飾りっけのないのお礼の言葉がとてもうれしかった。何より素敵なお子さんを見せてもらって、漢方薬をやってきてよかったなと思った。辛いことも多いけれど、喜びもある。今日初めて知ったのだが、この夫婦が紹介してくれた不妊の2組が2組とも妊娠したらしい。僕は紹介患者さんに敢えて誰の紹介か聞かないことにしている。先入観を持たずに、白紙のまま問診に入りたいから。不妊に関して言えば、僕のところに来る人は、最終の希望を持ってくる人が多い。だからかなり高齢でやってくる。もっと若い時に来てくれるともっと確率は高くなるのにと残念に思うことは多い。  あの年令で、あんなに可愛いお子さんを持ったら可愛くて仕方ないだろうなと容易に想像できる。今も数組不妊のお世話をしている。この人達にこそよいお子さんが授かるべきだと言うくらい善良な夫婦が多い。きっと素晴らしいお父さんお母さんになるだろうと思える人が多い。もっともっと早く僕と縁があってくれたらと思わずにはおれない。うぬぼれではなくて。漢方薬は不可能を可能にするものではないのだから。もっと、もっと地味な治療だから。