白衣

 何故、二人ともこんなにうまく育っているのか、機会があればどこかで発表でもしたらよいのにと思うほど、善良に育っている兄弟がいる。中学生兄弟だ。今日家族で来てくれたが、お父さんの仕事の都合で4人分の漢方薬を45日分ずつ作った。煎じ薬も含んでいるので結局2時間近く待っていてくれたことになる。やっと完成して調在室のドアのところに立っていると、弟が僕に近寄り、僕の白衣のポケットのところを指差し、「大丈夫ですかこれ?」と言った。彼の指さしたところを見ると茶色く手の垢が広範囲についていた。だいたい僕の白衣はかなり汚くて、襟なんてのは僕が癖でよく白衣を首の後ろに下げるので、汚れっぱなしだ。ポケットは今まであまり気にならなかったが、指摘されてその汚さに驚いた。「大丈夫ですか?」と尋ねた彼の真意は分からないが、もう少し清潔にしてといっているのか、僕の待遇を按じてくれたのか、今思えば真意を聞いていればよかった。13歳の男の子が何を感じたのだろう。  指摘されたからといって、僕の白衣がきれいになることはないだろう。僕らの大学は、周辺にアパートを抱えていて、学生は24時間白衣で過ごしていた。街の中を白衣姿がうろうろしていたことになる。勿論寝る時も白衣だから、汚れるは擦り減るはで、数年経てば、残っているのは重ねて縫っているところ、衣服の単語が分からないからうまく表現できないが、家で言うと柱がのこって壁がない状態のような白衣を着ていた。白衣と言うより、白衣のようなものになっていた。どうもその頃の自由な雰囲気が抜けきらなくて、今だ汚い白衣を着ている。それがとんでもなく落ちつくから手におえない。  少年の素朴な問いかけにふと青春時代を思い出した。破壊的で創造的な素敵な日々だった。