その手の人種

 薬剤師は仕事中は薬局を離れたらいけないので、原則としていつでも僕は薬局にいるが、今日偶然スタッフ3人が同時に、それも別々の理由で薬局を離れなければならなかった。その間母が一人で留守番をしてくれた。その間30分だったが、僕は会議に出ていてもハラハラするし、母もまた留守をこなせるかどうかハラハラしたに違いない。  最近阪大生が母親を殺した。学校へ行かず、パチンコばかりして、留年も繰り返しているらしい。ニュースを見た瞬間、何10年前かの僕とすぐ重ねてしまった。なんとなくニュースの裏側に流れるものが似ているような気が直感的にしたのだ。違うのは、僕は阪大を落ちたほうで、母親を殺すどころか今でも相当大切にしていることだ。後はなんとなく似ている。僕だけに限ったことではなく、当時僕の行っていた薬科大学は、失意のうちに入学した人もかなりいて、入ってすぐもう目標を失っている人がかなりいた。その手の人種は、お決まりの劣等生コースを歩む。ほとんどがパチプロの世界だ。今みたいに娯楽に選択肢はなかったから、ほとんどがパチプロになった。一日何時間も黙々と台に向かい、頭の中を空っぽにしていた。ジャラジャラと音を立てて出てくる玉に幸せはなかったし、満たされたこともない。煙草の煙に咽びながら、いつかはこの世界から脱出しなければと焦っていた。大学を出るのに5年かかったけれど、パチンコから足を洗うのもそれくらいかかった。大学に嫌われていたから卒業できたような僕が、その後まっとうな生き方をしたのは驚きだ。大学時代むちゃくちゃな生活を送っていたから、その反動で堅気になれたのだろうか。僕の先輩で、今だ当時の僕らのままの生活をしている人がいる。青春時代の僕を造ってくれたような人だが、今でも当時のままのようだ。(10年に1回くらいしか会わないから想像だ)もう一度、その手の人種と暮らしてみたい。劣等生の仲間はとても居心地がよかったが、いつも何かに飢えていた。あの飢えを僕はもう何10年も置き去りにしてきた。僕の原点だったはずなのに。