皮肉

 「なにぃ!釣りに行く?」思わず出た言葉だが、出ても不思議ではない。若い漁師が「今夜、友達と釣りに行く」と言うものだから。
 夕方やってきた若い漁師は、最近は夏休みにして漁に出ていないと言う。あまりの暑さで魚もいないのだろう。それと薬局にやってくるくらいだから体調に少し不安があって、大事をとっているのだろう。そんな彼が今夜友人と釣りに行くから薬を作ってと言うのだ。
 漁師が釣りをして遊ぶとはどういうことだろう。僕が休日に薬を作って遊ぶ?学校の先生が休日に塾で教えて遊ぶ?教会の神父様が休日にお宮へ参って遊ぶ?自衛隊員が休日におもちゃのライフルで野戦ごっこをして遊ぶ?野球選手が休日に草野球をして遊ぶ?・・・・・どれもありだ。
 本当に好きならありだろう。彼が遊びで釣りに行く理由は「魚の引きが指先に感じる快感が仕事では無い」そうで、友人とおしゃべりしながら魚の引きを待つのは楽しいのだそうだ。それはそうだろう、底引き網でのきなみとって行くのだから感動は無いだろう。
 薬局の中でのたわいないお喋りだが、僕は40年間、こうしたスタイルを貫いてきたので、とても多くの方とおしゃべりを楽しみ、多くの喜びに接し、多くの感動を味わい、多くの知識を頂いた。田舎の薬局なので特別立派な肩書きの人が来ることはないが、ごくごく普通の人が与えてくれるものにはすばらしいものが多くあった。薬局の中に閉じこもって40年。ただ僕の代わり?にそれぞれの持ち場で活躍をしている人からの情報はとどまることを知らなかった。仕方なく「あとを継いだ」のだが、こんなに合っているとは想像しなかった。田舎と薬局。どちらも否定していたのに、僕を生かしてくれる二つのキーワードだった。人生は皮肉なものだ。

過敏性腸症候群、うつ病のご相談は栄町ヤマト薬局まで

瞬間

 僕があの女を許せないのは、原発の爆発のあと、汚リンピックを誘致するために「おもてなし」などと言う心にも無い言葉を使ったことだ。金で買われてやったのだろうが、断ることはできたはずだ。職を失い、家をとられ、土地を奪われた多くの人の悲しみを理解することなく、いかにも日本が安全だと演じたのは汚部の犯罪に劣らぬ犯罪だ。だから僕はあの女がテレビに現れた瞬間にチャンネルを変える。、
 僕があの男を許せないのは、実は保身の塊だからだ。長い文章を口にすることができないのは親ゆずりだが、結局やってきていることは親子2代、実際には3代らしいが、世の金持ち達の手先で駆けずり回っているだけだ。政治屋の3代目が、庶民のことを理解できるはずが無い。まして底辺で暮らす貧乏人のことなど分かろうともしないだろうし、近づくのもいやだろう。あの男がやってきたことは何一つ新しいことはなく、ふるい財閥をまもっているだけだ。アホコミはネタになるものならとことん利用するから、あの男の無能振りを報じない。結果的な罪悪も報じない。やっていることは汚部と同じ。3代もうまい汁を吸うような人間にろくなやつはいない。だから僕はあの男がテレビに現れた瞬間にチャンネルを変える。、

別れ

〇〇さんへ
あなたは僕が大切にしているベトナム人女性のイメージそのものです。何も飾らず、ありにままの姿がとても感動的でした。日に焼けてスリムで、とてもよく働く人の姿です。案の定、あなたは早朝の散歩を楽しみ、寮の庭の草を抜き、とてもきれいにしたみたいですね。きっとベトナムでも同じことをしていたのでしょう。あなたがベトナムの田舎出身と言うことを聞いて、嬉しく思いました。美しい心を持つことが人生で一番大切なことなのです。貴女はすでにそれを持っていますから、これから先もずっと幸せでおれると思います。
日本をうまく案内してあげることができなかったのが悔やまれます。
幸せにね!
                                              日本のお父さんより


〇〇ちゃんへ
貴女を一言で表すなら「クール」です。
なんてクールな女性なのだろうと初めて会った日から感じました。
あなたは無駄な会話をしないし、何よりも無駄な写真を撮りません。多くのベトナム人と知り合いましたが、写真をほとんど撮らない女性は貴女で二人目です。僕が写真をとらない人間だから、親近感を持ちました。きっと貴女は、心の中でシャッターを押しているのだと思います。心の中に思い出としていつまでも取って置けばいいのです。
若い貴女だから、少しでも多く日本を知ってもらいたかったですが、少しは役に立てたでしょうか。3ヶ月の日本の生活が、あなたのこれからの人生に役に立てたなら幸せです。
もっともっと幸せにね!
                                               日本のお父さんより、

分業

 かつての経験を生かさない手はない。こんなこともあるだろうと思って持っていった薬学の雑誌を1冊読み終えることができた。それでも30分くらいは時間を無駄に過ごしたから、次回は2冊持っていくことにする。
 3ヶ月の応援部隊が今週帰国するから、希望の姫路城を案内した。案内と言うより、入場チケットを買ったところでひとまず分かれた。と言うのはもう何回も城の中に入っているので、敢えて又入る価値を自分では見出されない。だとするとその時間を有効に使うのにはこの方法がいちばんいい。木陰ができるのは予想通りだったので、意外と苦痛ではなかった。むしろ、城まで急ぐ外国人観光客のほうが、へたり気味だった。肌を露出しすぎだろうと言う姿を見かけたが、あれだけ太陽の光を浴びればしんどいに決まっている。紫外線のダメージを知らないのだろうか。
 1時間半ほど僕は姫路城の庭園付近にいたことになるが、一つ発見した。それは何回か数えておけばよかったと思うほど、パトカーと救急車のサイレンを聞いたのだ。牛窓で聞くその音の1か月分以上をわずか1時間半の間に聞いた。どれだけ事件や事故が起こる街なのだろうと思った。確かに兵庫県の西部ではいちばん大きな街なのだろうけれど、大都会ではない。人口に比例して色々な出来事が起こるのは理解できるが、鳴りっぱなしとは言わないが、何度も何度も聞こえた。
 姫路の街特有のものか、偶然暑さのせいで救急車のお世話にならなければならなかった人が増えたのかわからないが、少なくともあの時間多くの人が警察官や消防士の人に世話になった。観光客が大挙してやってくる休日の街で治安を守り、命を守る。見事な分業だ。

制御不能

 薬局を開けると同時に喉の薬を買いに来た。喉が痛いそうだが、喋る言葉が途切れ途切れで、いかにも息苦しそう。間質性肺炎で治療中なのは知っているが、会う度に呼吸が浅くなっている。いったいどのくらい苦しいのか想像できないが、まさか溺れているほどでもないだろう。ただ、病気の中でもかなりつらい部類に入るのではないだろうか。
 その彼が、「余命1年半と言われた」と教えてくれた。僕より1歳上、と言うことは、僕が同じことを言われた時の心情と、彼のは近いものがあるだろう。そこで僕は急に深刻な顔・・・・・・・にならないのが僕の特徴で、「ほんなら、タバコを止めたん?」と尋ねた。すると彼は「止めるわけないやん」と答えた。答えながらもむせる。「いい度胸しとるな」と感心するとやせこけた顔で笑っていた。
 そこで彼がなぜか急に話題を変えた。「〇〇さんとよくドラッグで会うんやけど、会う度に金を貸してくれって言われるんや」
「それはおえん、〇〇君は絶対お金を返してくれんよ」
「知っとるし、わし、お金が無いから貸してやれんわ。いつもドラッグでワンカップとつまみを買っとるわ」
「〇〇君は2回も法務局に出張しているけど、3回目もそろそろのような気がして心配なんよ。僕の金もまだ返してくれんし。会う火と会う人、金貸してくれって言っているらしいよ」
 片や間質性肺炎、片や寸借詐欺、25歳で牛窓に帰ってからの深い友人?達だが、それぞれ制御不能の動機によって自爆テロを行ったようなものだ。僕にはこのほかにもすでに世を去った個性溢れる制御不能人間の知り合いが幾人かいる。本当にそれでよかったのかと尋ねていたらどのような答えが返ってきていただろう。少なくとも今日の二人は確信犯で、要らぬおせっかいは通用しない。タバコ1箱、ワンカップ1本にこそ友情が宿る。

 アナウンサーと言うのか、キャスターと言うのか知らないが「心配なニュースが入ってきました」と突然言うから、福島で又不手際があったのか、どこかで事故が起こったのかと身構えてしまったが、何のことは無い、あるタラントがうつ病で仕事を2ヶ月休むと言う話だった。心配なニュースと言うが誰にとって、どのように心配なのかが全く分からない。一人のどうでもいいタラントが仕事を休むってことだけだ。電波をそんなつまらないことに使うなと言いたいし、又そんなニュースを見て喜ぶ人間が多いのかと不愉快そのものだった、あまりにもあほらしくてチャンネルを変えたら、そこでも又やっていた。
 いったいあのタラントの病気がどれほどニュースの価値があるのか分からないが、金になりそうなものにたかるアホコミの習性だ。身の回りを見渡せば、うつ病など珍しくも無い。まるで消耗品のように働かされ、アジアの人間との労働の安売り合戦に巻き込まれ、金のある奴等が錬金術で財産を増やすのを横目で見ていたら、うつ病になるのも仕方ない。天と地の差が、ついにしばしば目にする日本の日常の光景になってしまったのだ。、れいわ新選組山本太郎がが力説する「生まれて来てよかった国」など程遠い。もはや「生まれてこなければよかった国」になってしまっているのだ。そのようにした痔見ん党や金平糖に投票するおろかなうつ病予備軍。自分で自分の首を締めてどうする。いやいや仲間の首まで絞めてどうする。

保証

 なんともつらそうな顔だ。顔は血色を失い痩せている。食欲もないし食べれないそうだからそれは容易に想像がつく。カルテを見てみると毎年大体この時期にやってきている。それも同じ訴えで。今日もまた去年と同じ訴えだ。その訴える症状には近年劇的に奏功する現代薬ができて、漢方薬の出番がなくなるのかと思っていたら、そこから漏れる人が意外に多いし、その薬を連用すると痴呆と発ガンの確率があがってくることが最近しばしば報告されるようになってきた。
 僕の漢方薬と、ある天然薬でとてもよく効いて毎年喜ばれる。症状が取れれば足が自然と遠のいて、又冷たいもの硬いものお構いなしに人生を楽しむ。そうしてまた胃を壊して病院に行く。医者は劇的に効く薬をくれるが、この方はそのせいで火に油を注ぐように胃が悪化する。病院はさすがに信頼されていて、この数年必ずこのパターンなのにまず病院にかかる。初めて飲んだときに劇的に効いた成功体験から抜け出せないのだろう。
 弱りきった表情で入ってきたのに、会計を済ます頃には明るい表情を取り戻し「もうこれで安心。こちらさんがあるから安心しています。必ず治して貰えるから」と言った。ありがたい言葉ではあるが、息子さんが医者だから複雑な気持ちだ。恐らく息子さんはお母さんのことが大切だから、直接診ないのではないか。医者だからこそ見えるものが多く不憫で、冷静さを欠くのではないか。ちなみに、この方の主治医は息子さんの先輩らしい。
 医者が家族にいてもそんなにありがたいものではない。意外と恩恵も少ない。元気でおれる保証も無い。プロになればなるほど家族より人様を幸せにしたいと思うものだから。